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「昔の隙間だらけで安っぽいテクノが好き」 加納エミリインタビュー【前編】

周りに1980年代のニューウェイブを掘っている子なんて他にいませんでした

1980年代のニュー・ウェイブやテクノポップに、アイドル歌謡のエッセンスをまぶしたかのような楽曲と、端正な顔立ちからは想像もつかないコミカルなダンスパフォーマンスで、ライブアイドル界隈で俄かに注目を集めている加納エミリ。

2019年は精力的にアイドルイベントに出演する一方で、2月13日に初7インチ『ごめんね c/w Been With You』をリリース、同日に新宿motionで行った初の主催ライブも満員御礼と、ますます勢いを増している。

どこか懐かしさを感じさせる音楽性から、楽曲制作やプロデュースは別の人物が手掛けているのかと思いきや、作詞・作曲・編曲・振付と完全DIYのセルフプロデュース。自ら“NEO・エレポップ・ガール”を名乗る加納エミリは、どのように現在のスタイルを獲得したのか。その音楽的変遷に迫る。

――最初に好きになったミュージシャンは誰ですか。
加納  小学生の時から、宇多田ヒカルさんに憧れていて、よくカラオケで歌ってました。今でも、よく聴きますね。

――人前に出るのは好きなほうでしたか?
加納 学級委員になるとか、そういう派手なことは避けていたんですけど、人前で歌いたいという気持ちは常にありました。だからといって地元の札幌にいた時は音楽をやっていた訳ではなくて、高校生の時に文化祭でカラオケ大会みたいなのに一度だけ出て、aikoさんの『カブトムシ』を歌ったぐらいです。

――その頃は王道のJ-POPを聴いていたんですね。
加納 中3ぐらいで洋楽が好きになって、最初はアメリカの最新ヒット曲を中心に聴いてたんですけど、だんだん掘っていくうちに好きなものが変わり始めて。衝撃を受けたのがダフト・パンクで、それをきっかけに、インディ、オルタナ、ニュー・ウェイブなど、いろんなジャンルを聴くようになりました。

――周りの友達と音楽の話が合わなかったんじゃないですか。
加納 ですね。ヒットしている洋楽を聴いている子はいても、私みたいに1980年代のニューウェイブを掘っている子なんていなくて。

――ご家族の影響もあったんですか。
加納 父は学生時代からバンドでドラムをやっていて、音楽好きなんですけど、ほとんど影響は受けてないですね。いろいろ自分の好きな音楽を辿っていくうちに、いつの間にか昔の曲も聴くようになったんです。

――お父さんはどんな音楽を聴いていたんですか。
加納 いろいろ聴くんですけど、特にイーグルスとかウェストコースト・ロックが好きです。

――加納さんとは真逆のベクトルですね。
加納 ちょっとオジサン臭いような(笑)。父は私が生まれてからも趣味でバンドをやっていたので、よくスタジオに遊びに行ってました。一瞬だけ父にドラムを教えてもらったこともあったんですけど続かなかったですね。

――小さい頃から音楽に触れる機会はあったんですね。
加納 父のライブを観に行くこともあったので、そういう意味では小さい頃から音楽に対して距離感はなかったですね。

――ダフト・パンクをきっかけに現在進行形のハウスやテクノに行かなかったのも珍しいですよね。
加納 テクノは昔の隙間だらけで安っぽい感じが好きなんです。今のテクノって音圧勝負みたいなところがあるじゃないですか。そういうのを聴くと耳がザワザワしちゃってダメなんですよね。今のテクノも音数が少ないのは聴きますけど。

――札幌は昔からご当地アイドルが何組もいますけど、アイドルに興味はなかったんですか。
加納 アイドルになろうと思ったのが本当に最近なので、それまでは「アイドルって何?」って感じで、アイドルになろうなんて1ミリも考えたことがなかったです。今はいろいろ考えてアイドルの道を選んだんですけど、当時は歌いながら踊るなんて自分にはできないと思ってました。

意地っ張りなので、人に聞かずに独学でDTMを使って曲作りを始めました

――高校卒業後は音楽学校に進学したそうですが、音楽の道を志したのはいつ頃からなんですか。
加納 幼稚園ぐらいの頃から音楽の世界って面白そうだなって気持ちがあったんですけど、自分から行動を起こそうとはしなかったんです。高校を卒業して東京に行くって決めてから高を括りました。

――学校に軽音楽部はなかったんですか。
加納 なかったんですよ。

――音楽をやりたいなら吹奏楽部って選択肢もありますよね。
加納 その頃から楽器ではなく“歌”だったんですよね。それで上京する半年ぐらい前に、DTMに触っておこうと思って全くの自己流で始めて、曲も2曲ぐらい作りました。

――当時はどういう曲を作ってたんですか。
加納 もともと電子音楽が好きだったので、そこをベースにインディ・オルタナっぽいのを中心に作ってました。

――もともとパソコンには強いほう?
加納 それが弱いんですよ。今もよく分からなくて……。ただ意地っ張りなので、人に聞かずに自分で頑張ってます。

――ちなみにダンス経験はあったんですか。
加納 小学生の時にヒップホップを3カ月ぐらい習いました(笑)。昔から運動は苦手なので……。中学生の時に3年間、軟式テニス部に所属していたんですけど、全然やる気がなかったので3年間、一度も勝てずに終わりました。

――一度も勝てないは相当です(笑)。よく辞めずに続けられましたね。それはそれで忍耐力が必要ですよ。
加納 根性だけは昔からあるんですよ。今も「なにくそ!」って気持ちは強いし、粘り強いほうだと思います。

――音楽学校卒業後、レコード会社に所属したそうですが、どういう経緯だったんですか。
加納 学校で発表会があって、今でもライブでやる『恋愛クレーマー』という曲を披露したんです。そしたら発表会に来ていたレーベルの方が声をかけてくださいました。それから2年半ぐらいレコード会社にお世話になっていました。

――レコード会社では、どんな活動をしていたんですか。
加納 楽曲制作を中心に、週に一回ボイストレーニングがあったり、専用スタジオで練習したり、ダンスの基礎レッスンもあったり。全く今に活かされてないんですが(笑)。ただ歌のスキルが上がったかどうかは自分で分からないんですけど、音楽ビジネスの考え方とか、自分の見せ方とかはすごく学びましたね。

――曲は定期的に作っていたんですか。
加納 そうですね。「週に一回は必ず提出してほしい」と言われていたので、完璧なものではなくて、ラフっぽいものをワンコーラス分とか作って提出してました。

――歌詞はどのように学んだんですか。
加納 あまり歌詞のことは気にしてなくて。もともと洋楽ばかり聴いていたので、歌詞に対する思い入れがあんまりないんですよね。とりあえず韻を踏めばいいのかなって(笑)。たとえば宇多田ヒカルさんの曲を聴いて、いい歌詞だなと思うんですけど、自分の曲に関しては関心がない上に、文を書くのが苦手なんですよ。なので歌詞を書くのは苦痛です。

――シンガーソングライターは歌詞に重点を置く方が多いので、そこも珍しいですよね。
加納 歌詞で自分を表現したいってタイプなら頑張れるんでしょうけど、特にメッセージもないですし、何なら誰かに書いてほしいぐらいで。

――歌詞に思い入れがないところが、どこかクールな加納さんの個性になっていると思います。レコード会社に所属している時にデビューする雰囲気はあったんですか。
加納 それに向けて活動はしていたんですけど、なかなかチャンスに恵まれなくて……。けっこうプレッシャーを感じていたので、精神的にもしんどかったです。

――当時、ステージに立つ機会はあったんですか。
加納 2年半で3回だけ立ちました(笑)。レコード会社内で1回と、女の子同士で2人組のユニットを組んでいたんですけど、それで2回です。

――そのユニットもアイドル路線ですか。
加納 アイドルではなくアーティスト路線ですね。曲は私が全部作っていたんですけど、相方の子がメインで歌って、一緒にダンスして。ダンスは今よりもカッコ良かったんですけど覚えるのが大変でした。

――ユニット活動の期間は?
加納 半年ぐらいですね。方向性の違いで解散して、「一体、私はどうなるんだろう」って不安を抱えて日々を過ごしていました。正直、音楽を諦めようかなって考えたこともありました。でも今後の人生を考えた時に、音楽以外で生活するのはありえないなと思って。25歳までは一生懸命、音楽を頑張って、25歳を過ぎて先が見えないようならキッパリと辞めようと自分の中で条件を決めたんです。

――どのぐらいの期間、悩んでいたんですか。
加納 半年ぐらいです。2017年の夏にユニットを解散して、2018年の5月にアイドル活動をスタートしたんですけど、2018年の初めにはソロ活動を始めようと思ってました。

(商品情報)
加納エミリ『ごめんね c/w Been With You』
価格:1,500円+税
品番:NRSP-755
発売元:なりすレコード
仕様:7インチ・レコード

収録曲:
A.ごめんね -Single Ver.-
B.Been With You

猪口 貴裕

北海道出身。出版社勤務を経てフリーライターに。エンタメ系を中心に様々な媒体で節操なく寄稿。アイドル誌やゲーム誌の編集にも携わる。「LADY SOUL」主宰。